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2017年3月 2日 (木)

私のツボ11『ラ・ラ・ランド』

『ラ・ラ・ランド』を見て、さらにアカデミー賞授賞式を見てから、ちょっと書きたくなったので、書いてみました。
※ネタバレしています。ご注意ください!

 ──"La La Land"、それは夢見る人の国のお話。
 タイトルは、ロサンゼルスの愛称とハリウッドを夢見る人がたくさんいる場所ということで、そういう夢見心地の人が集まるおとぎの国、という揶揄の入った言葉でもあるようです。
 私は往年のハリウッドミュージカル映画にくわしくもないし、よく引き合いに出されるジャック・ドゥミのミュージカル映画も見ていない。しかし、ミシェル・ルグランは大好き。ジャズテイストでおしゃれな弾むようなサントラ音楽を、ずっと昔から聞いていた。だから私は、ルグランを彷彿させるこの映画の音楽がとても気に入って、帰りにサントラ盤を映画館で買って帰ったのです。日本のCDはお高いですけど、対訳がついてるからね。ジャケットが超ダサいですけど!

 パソコンに入れたら、iTunes Storeのジャケット画像をダウンロードしてくれた。こちらはシンプルでかっこいい。
 ということで、オープニングの音楽にガツンとやられたわけです。一番好きな曲。渋滞するハイウェイでの華やかな群舞に、ちょっと泣きそうになった。こういうケレン味のある映画って最近全然ないから(アメコミ映画ですらリアル指向ですから)、そういうのを堂々と楽しそうにやっているところに感動してしまった。聞くと元気になる曲で、まさにつかみはばっちりです。
 女優を夢見るミアとジャズの店をやりたいピアニストのセブが初めて顔を合わすのもこのシーンなのですが、ここでは互いに最悪な印象を残すこととなります。ロマンスの定石ですな。
 いくつかの偶然を経て、二人はちゃんと出会い、つきあう前のワクワク感とつきあい始めの高揚感を歌と踊りで表現します。一番の見せ場であるマジックアワーを背景に二人で踊るシーンは、もっと長くてもよかったな、と感じた。ロケなのに、まるでセットみたいな色合い。IMAXで見たせいなのか、画面が明るく、色もとても鮮やかで、すごくきれいだったからこそ、もっと見たいなと思いました。
 しかし、だんだん現実が二人に押し迫ってくる。ミアは何度オーディションを受けてもダメだし、店を出すお金を稼ぐためセブは友だちのバンドのキーボードに参加して忙しくなってしまう。このバンドの音楽が、微妙にダサいところがとてもいい。いや、けっこう私は好きなんだけど、「なんか違う」と思わせるさじ加減が絶妙だな、と思いました。この曲を作って歌ったジョン・レジェンドがアカデミー賞歌曲賞のパフォーマンスをしていたのもすごくよかった。あの舞台で歌うのは彼以外いないという誰もが納得のキャスティングで、実際に素晴らしかったです。
 ミアは、自分で脚本を書いて一人芝居に挑戦することになるんだけど、その公演の夜、セブはバンドの仕事を忘れていて抜けられず、見ることができない。これはけっこう決定的な出来事です。大事な時にいてくれなかった、という事実は、いつまでも引きずる。ミアは彼を信頼できなくなり、彼もそれを痛感せざるを得ません。
 そうは言っても大切な人であることは確かなので、セブは彼女の夢を後押ししてあげる。田舎へ帰ってしまった彼女にオーディションを受けさせるため、車で迎えに行くのです。
 この最後のオーディションシーンも大好き。私はこれを「おばちゃんの歌」と呼んでいる。ミアが女優を志すきっかけを作った女優だったおば──母方か父方か、伯母なのか叔母なのかもわからないけど、もう亡くなっているということは、若くしてということなのでしょう。その大好きなおばちゃんとの思い出と、セブとの本当の別れの予感と、夢見る人たちへの希望がぎっしり詰まった歌は胸を打ちます。
 エンディングは、二通り。五年後、有名女優になり、結婚して子供も産んだミアが、セブの店を偶然見つけて、彼のピアノ演奏を聞くのです。こだわっていた場所でもないし、店名もセブが考えていたものではなく、ミアが提案したものになっていたけど。
 彼の情感のこもった演奏を聞きながら、あったかもしれないもう一つの二人の人生が現れる。二人は別れず、互いの夢もかなえ、幸せな家庭を築く、というもの。ロマンスだったらこっちのラストになるはずのハッピーエンド。
 でも本当はそうじゃない。夢をかなえるためには何かをなくさなければならない、という苦い現実がそこに在るわけです。何もなくさない、何もかも手に入れる人もいるだろうけれど、それこそ本当の夢だよね。
 一度アカデミー賞作品賞を受賞したと思ったら「違う!」となった授賞式は、皮肉にもこのエンディングが現実になったような展開で、最初見た時はちょっとショックを受けたんだけど、今思いだすと面白い。監督賞を獲ったデミアン・チャゼルが「あの時、作品賞まで受賞してたら調子こいてたねえ、ハハハ」と将来言うことに100ガバス賭けてもいい。
 アカデミー賞でいっぱい賞を獲ったからって、基本は楽しいエンターテインメントなので、気楽に見に行くのが正解な映画だと思います。素敵な時間を過ごせますように!

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コメント

とてもいい映画でした。見事な評ですね。
傑作です。アカデミー6部門を受賞したのも納得。
オープニングのハイウェイのミュージカルシーンでまずドキモを抜かれました。
ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの二人もとてもいいです。
楽曲が素晴らしいですね。
ダンスシーンは割と少ないのですが、ほとんどがワンシーン、ワンカット。
観客としてはうれしいですが、俳優もスタッフも大変だったでしょうね。
ただ。ラストの15分がせつないので、 個人的にはもっと能天気な明るいミュージカルも見たくなりました。
アカデミー賞作品賞の件は確かにこの映画のエンディングと妙に呼応していたかも。

投稿: きさ | 2017年3月 2日 (木) 22時25分

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