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2014年2月17日 (月)

『ぶたぶたのお医者さん』ネタバレおまけSS『NNN』

 珍しいことに連投です。
 しかも、『ぶたぶたのお医者さん』のネタバレおまけショートショート! あとがきではなく、SSを書いてみました。
 ただ、犬のチョコに関しては省略になってしまうのですが──いつか書けるかしら? これからちとヤバい時期に入るのですよね(´・ω・`)……。
 とにかく、お楽しみいただけたら幸いです。知ってる人にはタイトルだけで若干のネタバレ気味(´∀`;)。
 巻末にちょっとだけ解説がついてます。

『NNN』

 東京に二度目の大雪が降った夜、NNN特別工作員である彼はそろそろと新雪の上に足を降ろした。
 まだ雪は降り続いているが、もうまもなく雨に変わる頃だろう。こんな夜はうってつけだ。人間はひどく感傷的になる。
 どんな作戦にしようかと考えながら歩いていると、後ろから声がかかった。
「こんばんは、うしこ」
 振り向くと、白地にシールポイントの入った半長毛の猫が塀の上から自分を見下ろしていた。
「……それ、やめてくれない?」
「なんで? 決まりだろ、人間からの呼び名がコードネームになるって」
「安易なんだよ、牛柄だから『うしこ』って。しかも、俺オスなのに」
「お前、母ちゃんぽいからなあ」
 ちなみにこいつのコードネームは、「高そうな子」だ。きれいにしていると、ゴージャスに見えるから。どこかの飼い猫が逃げ出したか捨てられたと近所の人間は思っているらしいが、うしこの知っている限り、こいつは生粋の野良だった。
「今夜の予定は?」
「あそこの廃屋で生まれた子猫を送り込むつもり」
「ああ、こういう夜はいいよね。子猫を放り出すことなんて絶対にできないよ」
 ただ預ける人間はじっくりと見極めないといけない。人間は猫より残酷な動物だ。
「どこの家にするかは決めたの」
「うん」
「そうか」
「どこの家か訊かないの?」
「お前の見立てなら大丈夫だと思うし」
 確かにうしこはここら辺の野良や捨てられた子猫を人間の家に送り込み、飼ってもらうことに成功しているが、失敗がないわけではない。
 うしこは、一番難しいとされるその工作を担当するエリートであったが、歳を取り始めてきていた。こんな夜は、肉球が冷たい。
「高そうな子」を後継者にするつもりだが、彼は彼で人間家庭の調査員として凄腕だった。動物の飼える物件に住んでいるかや経済状況はもちろん、家族構成や動物に対しての意識や攻略ポイントなども探る。彼は人懐こいし容姿がいいので、どこにでも潜り込めるし、逃げ足も速い。たくさんごはんをもらって、いつもツヤツヤしている。
「そういえばさ、トラさん、引退して完全室内飼いになったらしいよ」
 高そうな子がふと思い出したように言う。
「マジか!」
 うしこは驚いた。孤高の敏腕工作員であったトラは尊敬すべき存在だ。基本、自分が一番だと思っているのが常識の猫にとっては珍しい。何匹もの子猫や、時には成猫の命を救ってきた。成猫の引取は、最も難しいとされるミッションなのに。
「トラさんだけは人間の家に落ち着かないと思ってたのに……」
「いい家があったらしいよ。こればっかりは縁だからね」
 自分も工作員ができなくなったら、そんなふうに世話になることがあるんだろうか?
 そんな自分は想像できなかったが、トラも同じようなことを言っていたと思い出す。
「猫生、何があるかわからないね」
 高そうな子がニヤリと笑う。
「おっと、無駄話が過ぎた。見回りに行かなきゃ」
「そうだな。俺も子猫を迎えに行ってくる」
 高そうな子が踵を返しかけたが、すぐに振り返る。
「そういえば、この間頼んだ子猫はどうした?」
「ああ、ちゃんと飼われることになったみたいだよ。あの家じゃなくて、息子の家らしいけど」
「確認したの?」
「してきたよ。大変だったよ。中がなかなかのぞけない家だったからさー。人間と杉並支部から来た子と目が合って焦ったー。でも、その子が教えてくれたんだ。名前は『モカ』になったって」
 彼から頼まれたひどくビビリな子猫をその家に預けたのだ。
「よかったよ。あんなにビビリだと、外でストレス死すると思ったから」
「あの子とお前、模様が似てたけど、親戚なの?」
「うーん、どうかなあ……?」
 彼はそれ以上、何も答えなかった。うしこも訊かなかった。詮索をしても仕方のないことだ。
「じゃあ、また次の地区会議の時に」
「ああ、また」
 雪の中、二匹はそれぞれ歩き出した。
 彼らの仕事はまだ終わらない。ねこねこネットワーク、あるいはぬこぬこネットワーク──どっちにしろNNN──による人間下僕化計画は。

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 NNNに関しては、こちらを参照ください。
 うしこは、実際にうちの近所に出没していたオスだかメスだかわからない野良猫です。
 ピノンを保護した頃、家の中をのぞいていたりしたのです。その時、NNNを思い出したのですよね。
 それで、トラの話を書いてみました。

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コメント

こんばんは、矢崎さん。

そうですね、ピノンちゃんもNNNに送り込まれた子猫かもしれませんね。

我が家では、犬を飼っているのですが、私のことをどう思っているのかと考えたりします。
軍手をくわえてきて、遊んでもらいたがるように見えたりしますが、遊んでやっているつもりなのかなあとか。

猫ちゃんにしろ、犬にしろ、飼い主は骨抜きです。

面白かったです。

投稿: こっぱもち | 2014年2月17日 (月) 19時51分

いつも楽しく拝見しています。
ぶたぶたさん、どれを読んでも面白いです。
全作読んでしまいました!

もっと読みたいので、新作が出来るのを楽しみにしています。

投稿: bu-mama | 2014年2月24日 (月) 20時59分

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