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2008年5月29日 (木)

私のツボ5『月光』(ネタバレあり)

 井上靖さんのことを書いたら、何か読み返したくなりました。
 ということで、今回は舌の根も乾かぬうちに井上靖さんの『月光』(文春文庫)です。

※現在は古本でしか手に入りませんが、ネタバレを含みますので、ご注意ください。

 読み返したいと思ったはいいけど、やっぱりバッドエンドはいやだと思う私。
 カミングアウトしてしまうと、私、現在海外ロマンス小説にどっぷりはまっている状態なんです……orz 番外編で「今はちょっと気持ちが疲れているので、アンハッピーエンドのものを読むのはつらくて」と言ったのは本当で──でも、小説って最後どうなるかわからないのが普通じゃないですか。それで読み進めて、とても悲しいラストだったりすると、シャレにならないほどショックを受けてしまうんですよ、ほんとに。自分で書くのは全然平気なのにさー。
 そうなるとね、ハッピーエンドが保証されてる小説なんて、ロマンスものしかないんです。それで何となく読み始めたら、止まらなくなってしまって。ハーレクインも読みますが、どちらかというと二見書房やヴィレッジブックスとかから出ている文庫のロマンス小説が中心です。最近はヒストリカル(歴史ロマンス)をよく読んでます。読み方、ちょっと偏ってますけど。
 なので、井上さんのものとて、やっぱりハッピーエンドのものが読みたいのです。そして、うちに残っている井上さんの恋愛小説の中に、そういうのがあったんですね。それが『月光』です。(井上さんのハッピーエンドものはもう一つ思い出す作品があるんだけど、これはちょっと──ラストびっくりしたな(^^;)。家にないけど)
 頭はすでにロマンスでいっぱいの私ですので、巨匠の作品を畏れ多くもロマンス目線で読んでしまいました。

★あらすじ
 ヒロインの梓せい子は22歳。短大を卒業後、郷里の新潟から上京し、叔父宅に下宿しながら会社勤めをしている。実家は、父を失ってから母が小さな雑貨店を営み、つましく生活をしている。だが、梓家は地元では有名な旧家で、せい子は東京の会社でお嬢様だと思われていた。否定するまでもない、と思っていたが、以前から好意を持っていた同僚の尾沼多加志に結婚を申し込まれたことから、真実を知られるのを恥じ、彼のプロポーズを断ってしまう。

「結婚のために家柄を調査する」とヒーロー(ロマンス小説では、相手役の男性のことをこう言います)に言われてしまうのです。しょっぱなから「女中さん」とか出てくるし、昭和30年代にもかかわらず、気分はもうヒストリカル。ヒロインは、実家が貧乏であるのをヒーローに知られたくないばかりに、いきなりミスを犯します。ここで「うち貧乏なんだけど」と言えていたら、何も問題はなかった。でもヒーロー、無頼を気取っていますが、実は資産家の出。そこら辺の格差と、いきなり引き合わされた彼の母親の前での粗相から、ヒロインは怖じ気づいてしまいます。
 ここらの感覚はまだ許せるとしても、その後の素直でない(というより卑屈な?)行動と言動、さらに又従兄弟で幼なじみの三田英輔を許嫁と偽り、婚約までして彼の気持ちを弄ぶに至っては、なんてドイヒーなヒロイン、いやもうDQNとしか思えなくなってきます(^^;)。
 傲慢なヒーロー、というのはロマンス小説の定番の一つですけど、ヒロインが傲慢というのもあるにはある。その中でも、一、二を争うよ、せい子……orz 傲慢ヒーローの特徴として、「自分のしたことは謝らない」「相手をふしだらだとなじる」というのがありますが、彼女も自分の蒔いた種であるにもかかわらず、ヤケを起こして別の女と酔ったはずみで寝てしまったヒーローをなじります。つきあってもいないし、自分から振ったくせに(まあ、怒りたくなる気持ちもわかるけどさ)。この時のヒーローの言い訳がなんかおかしかった。「この問題は大丈夫なんだ」ってセリフだけ書き出してもよくわかりませんが、これはちゃんと避妊をしたってこと?
 たまに「こんな女のどこがいいんだ」と思うようなヒロインがいますけど、それでもヒーローは一途だったりするのです。ヒーローは本当に、貧乏であるとか家柄とかは関係なく、ヒロイン自身と結婚したかっただけで、「調査」は形式的というか、彼女のことを知りたかっただけだった。だから、どのような結果であっても気持ちを変える気などなかったのです。実際、彼の親や親族も、そういうことは気にしない人たちだったんですが、受け入れられない人たちも多かった時代だったのですね。
 まあ、彼の不用意なそのひとことが、ヒロインのコンプレックスを悪い方に向けてしまった、とも言えるのですが、どちらかと言うと、ヒロインがちょっとまだ子供だったってことでしょうか。女性読者から嫌われるヒロインだろうなあ、と思ったよ。ロマンス小説はヒーローの魅力が大きな柱になりますが、せめてヒロインは大人でないと──って、これロマンス小説じゃないけどねっ。
 でも、井上さんの小説のヒーローは、私の好み。ヘタレだし。最後もヒロインに「君なしでは駄目なんだ」と謝ってきます。そこでようやく、ヒロインも彼なしでは生きていけない、とはっきり認識するのです。
 ヒーローのセリフに殺し文句が多く、それだけ書き出すととてもロマンチックなのですが、ヒロイン、なかなかときめかない奴……。井上さんの恋愛ものって、男性はみんな魅力的だけど、ヒロインはけっこう冷たい女が多かったな、と思い出したよ。
 それから、ヒーローを奪おうとする女から「協力しろ」とヒロインがけしかけられるシーンを読んで、こういう定番シーンを最初に書いた人って誰なんだろう、と思ったり。カミングアウトついでに言ってしまうと、私、ネットの恋愛小説も山ほど読んでいるんですが(『ぶたぶたと秘密のアップルパイ』の森泉風子と同じなんです)、その中に一日一回は出てくるんじゃないか、というシーンですよ、これ。

 けなしているように見えるかもしれませんが、実はかなり萌えながら一気読みしました。じれじれものは、好きです。特にヒーローの心情を思うと、切なかったね。ヒロインに対する感情だだ漏れ状態も微笑ましかったし、彼の殺し文句は本当に素晴らしくてね〜、何度本を置いて身悶えたか。翻訳ものにはない楽しみ。美しい日本語です。ストレートな情熱にあふれる言葉がたくさんあって、これこそ井上靖作品の醍醐味だなあ、と改めて思いました。
 ──と、ここまで書いて、いいのかな、と急に不安になる。ごめんなさい、すみません。こんなこと書いてしまったけど、ほんとに大好きなんです、井上先生。許してください……。

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